新種!サイレント馬頭琴(但し、現在のところ馬頭無し) 注)おかもと製ではありません製作者からのレスポンスを頁末に掲載しました。本文中の各
リンクで跳んで参照ください。
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同じものをたくさん作るのが不得手なので、最近、モリンホールの注文が
来ても知らぬふりを決め込んでいたのですが、
ひょんな事からあるエレキ馬頭(今のところ無し)琴の存在を知ることになりました。そして、その作者からいただいた画像を見て、いたく感銘を受けたので
す。 (その経緯は「のど歌の会」BBS
No517〜を御覧下さい) それはシベットさんという方が作られたもので、詳細は後で書きますが、農具 のクワの柄をネックに転用してあり、何とも豪快な竹刀形をしています。 僕が作ったのは、始めにエレキ化ありきでしたが、シベットさんのは先ずサイレントな楽器の必要性があって、それからピックアップを取り付け、その後に胴が 付くとい う進化を辿っています。 能書きはともかく、先ずは写真を見ていただきましょう。 |
(a-1) (a-2) (a-3) |
■(a-1〜3)
楕円断面の鍬の柄を平に削って指板にしてあるのが見えます。刀の鍔(ツバ)のような下駒が特徴的(というか全部が特徴的)ですが、テイルピースから下が長
いのは製作者曰く「フ
ロアソニック」を期待したからだそうで
す。残念ながら期待通りの効果は出なかったようですが、おそらく絃やエンドピン(?)と床面の振動方向が合わないからでしょう。 テイルピースはなんだかちょっとショボそうな感じですが、後にもっとリッパなものに交換され ます。(ひょっとしたら、リッパな方は写真右にあるフェラーリサウンドホール付き自作器から奪ったのでは?) |
(b-1) (b-2) |
■(b-1,2)
ペグはエレキベース用。ネックは農具の鍬(クワ)の柄で、材質は樫だそうです。ヘッドの微妙なオフセットでペグと上駒のアラインメントを取っているのが面
白い
です。この時点で既に改造後の写真です。(先に述べたテイルピースばかりか上駒まで「本物」の馬頭琴用がおごられてい
ます)。また、サイレントからエレキ
に進化する過程で、ピエゾのピックアップを装着したそうですが、始めは鍔形の駒に付けたところ低音が響かなかったとのこと。これは、駒の質量が大きいこと
や形状、それに加えて駒の付いている場所が堅いネック(この辺はボディーと言うべきでしょうか?)の上なので振動が規制されるという問題が多分に影響して
いると思います。 |
(c-1) (c-2) |
■(c-1,2)
全長が切り詰められて、テイルピースが替わり、ボディーも付きました。灰色のパイプは排水用エンビ管のトラップという部品です。U字部分に排水を溜めおい
て汚水からの臭気などを止める、あれです。楽器の下の方に付いているし、ポジションは膝の間、トラップの曲がりクネった形状にその機能もあいまって、S字
結腸から馬糞などという連想が頭をよぎります(スミマセン)。パイプ胴は若干の共鳴が期待できる構造のようですが、事実、少し生音が大きくなったとのこ
と。(サイレントが製作目的だったのでは?) 膝に挟むポジションが若干きつめかもしれません。右側のR部分は滑べりそうですが、スポンジを貼るかも、とのことで す。(弓が床と並行なのは御愛敬?) 短くなったテイルピースより下に何故かギターのエンドピンが。(しかも少しオフセットされているのは何故?) |
(d-1) (d-2) (d-3) ■(d-1〜3) この角度で見る曲がりくねったパイプボディーは「クラインの壺」を彷彿とさせますね。 こうして見ると、やはり駒の厚みが気になります。しかし後述するように、PUの位置を駒からボディーに変えてから低音の弱みも低減したとのことなので、振 動方向を変換するという駒の役目を云々する必要はもはやないようです。 ピエゾピックアップはサイレントバイオリン等を製作しているコムミュージック社の「コム・ピエゾ」というタイプ(¥1800)だそうで す。ちなみにシベットさんはジャックレセプターを自前で付けられていますが、コム社のレセプター付きピエゾPUはいきなり¥4800になるのは何故? なお、作者シベットさんの「ジャックのある開口部のあたりはジョイントになっているので、いくらでも塩ビパイプをつなげていけます。異径ジョイントで太い パイプを付けたりし ていくと面白かったんですが、結構重くなるので結局はずしました。あと真ん中の空間からメガホンがつきだしてるとか。昔の蓄音機みたいな理屈で、音が大き くできれば、これも面白いです。」というメールメッセージは初心を忘れたまったくの本末転倒で、工作遊びの真髄の域に達せられた方だと察しられま す。 |
所 感世の中には、楽器の練習をしたいが近隣や家族への迷惑を考えると二の足を踏む、もしくは既に有言無言のプレッシャーを受けていて、諦めずとも肩身の狭い思 いをしている方は多いようです。だからこそ「エレキ馬頭琴」なる怪しげなインチキ楽器にも需要があるというものなのですが。必要に迫られた時、手近な材料 でとりあえず作ってしまう、というシベットさんのスタンスは僕自身の作品製作動機と共通するものを感じます。 しかし、これまで僕は、いろいろインチキな偽道具をでっちあげるなかで、それぞれの作品に勿体ぶった蘊蓄も どきの能書きを抱き合わせて、他人に見せびらか すことを楽しんできたのですが、その結果、どうしても「見てくれ」を気にした製作態度をとらざるを得なくなっていたようです。機能に関係ない「飾り」や立 体 作品の本質から少し外れる「色」や「文様」(実は不得手なだけなのですが、、)は重視しないと言いつつも、完全には排除仕切れないでいました。そこへこの 「竹刀形馬頭琴」、「クワの柄馬頭琴」、、、何と呼んでも良いのでしょうが、、、が天啓の如く現れて、目からウロ コのどったまげ状態です。 シベットさんのサイレント馬頭琴に見られる直截さ朴訥さには完全に脱帽です。全く装飾を排したミニマリスティックな構造ながら、中心材料に鍬の柄を使用し たことに特別な意味がこめられている様に思えます。作者が意識しているか否かは判りませんが、遊牧民の楽器たる馬頭琴に農耕民の象徴的農具である鍬を使う ことの密かな面白さ。日本人がモンゴルの楽器を作っても所詮偽物であり、エレキならなおのこと。その中に偽物とし ての気骨を埋め込んであるというわけで す。(ところで、竹刀の話はどこへ行ったんだ?とは訊かないでください) しかも、シベットさんはそこで留まらず、上記写真の説明でも述べたような各種の面白い試行錯誤の結果、曰く「音が大きくできれば、これも面白いです」とい う究極 の本末転倒を目指されています。駄洒落を連発しているうちに元の言葉を忘れて収集がつかなくなった状態でも、なお音の似た単語を発し続け、その中に「元の 言葉」が有ったりして、辟易している聞き手からブーイングを受けたことを思い出しました。(そんなことってありませんか?ないですか、、、、。そうです か、、、。僕はそういうアホな、言い替えれば不条理な状況がすごく好きなのです。) ■(e-1) 今一度、サイレント(無)馬頭琴の姿を、モンゴルのモリンホールと見比べて見て下さい。 モンゴルのものも表板や f 孔を採用するなど、ここ数十年での進化というか変貌が甚だしく、それはそれで蒙洋折衷のある種の美しさに至っているのですが、モンゴルから見れば遙か海の 向こうの島国で突然変異 的に生まれたシベット版サイレント(無)馬頭琴の容貌はそれどころではない量子論的跳躍の美形に見えます。(僕だけかなあ、、、、) (e-1)
謝辞: 面識もない僕に快く写真資料を提供し、ろくでもない当サイトに掲載することを快諾してくださったシベットさんに心からお礼申しあげます。その勇気には感服 いたしました。さすが土佐のいごっそう! |
製作者シベットさんからの丁寧な追補素朴な疑問にも、一つひとつお答えをいただきましたので、全文を掲載します。 |
>テイルピースはなんだかちょっとショボそうな感じですが、後にもっとリッパなものに交換されます。(ひょっとしたら、リッパな方は写真右にあるフェラーリサウンドホール付き自作器から奪ったのでは?) ●しょぼい(自作)テールピースの
方が「フェラーリ」からの流用品です。今付けてある立派なのはセイヨーコーポレーションから購入しました。本文へ戻る↑
●これもセイヨーコーポレーション
から買って、買ったのはアコースティック馬頭琴に付けて、その馬頭琴にもともとついていたのを、エレキの方に流用しました。ややこしいですけど。本文へ戻る↑
●演奏姿勢は何も考えずに撮影したのですが、言われてみると弓が弦
に直角に当たってないですね。弾いて確認してみましたら、自分の場合、外弦を弾くときはごらんのような少し斜めの角度になって、内弦を弾くときは直角に当
たっているようです。たぶんアコースティックを弾くときにボディに弓が当たるのを回避しようとした結果、こういうクセがついたんだと思います。ちょっと気
になってきましたが、必死に修正するのも面倒くさいし、音は一応出てるみたいなので、今後は成り行きで。トラップのボディにはスポンジじゃなく、粘着テー
プ付きのフェルトを貼ってみました。これもなかなか具合がいいです。本文へ戻る↑
●一応、立奏をめざしてストラップ
を付けたのですが、普通にギターみたいに持つとネックが体に沿ってしまって弾けないですね。おかもさんのアダプターにあるような、腹に突っ張ってホールド
する部品が必要なようです。こっちのほうは研究中です。エンドピンは最初真ん中に着けようとしたのですが、トラップを固定してあるボルトに固定用のビスが
当たってしまいました。よってオフセット装着を余儀なくされた、というツマラナイ理由です。本
文へ戻る↑
●コムピエゾ(¥1800)には、
薄い黒檀の小さな台座が付属してきますので、これに圧電素子を接着し、熱収縮テープで保護して使ってます(と言うか、説明書に「そうせよ!」と書いてあ
る)。レセプターつきがいきなり¥4800になるのは僕も「?」でした。本文へ
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●本末転倒、大好きな言葉です。あ
る程度実用を考えながらも、製作上面白くなってくれば実用はとりあえず置いといても、おもしろさ優先でなんでもあり、にすぐ走ってしまいます。素人の気楽
さですね。本文へ戻る↑
●道具としての「高級感」「持つ楽
しみ」というというのもありますから、見た目の美しさはとても大事だと思います。僕はとても面倒くさがりなので、工作の手間を極力廃する傾向があり、その
結果「見た目」にかける手間が飛んでいるだけで・・・本文へ戻る↑
●いや、それはほめすぎです。どち
らかと言えば目にウロコが飛び込んだのだと思います(笑)。・・・・ただ、既製品の流用は大好きですね。使っている部品がもとの形を残していると最高で
す。1例をあげると僕ら望遠鏡自作の世界では、寸胴ナベを望遠鏡製作に流用するのがある意味「定番」となっています。本文へ戻る↑
>シベットさんのサイレント馬頭琴に見られる直截さ朴訥さには完全に脱帽です。全く装飾を排したミニマリスティックな構造ながら、中心材料に鍬の柄を使用したことに特別な意味がこめられている様に思えます。作者が意識しているか否かは判りませんが、遊牧民の楽器たる馬頭琴に農耕民の象徴的農具である鍬を使うことの密かな面白さ。日本人がモンゴルの楽器を作っても所詮偽物であり、エレキならなおのこと。その中に偽物としての気骨を埋め込んであるというわけです。 ●夢を壊すようで申し訳ないですが、廃品のクワの柄がたくさん職場に転
がっていて、「しっかりした木を使っているのにもったいないなあ」と思って使ったものです(エレキ馬頭琴の他にも「かんから三線」を1本クワの柄で作った
りもしてます)。
でも、この考察はとても意味深いですね。これからは「こんな理由であえてクワの柄を採!!」ということにしたいと思います(ちょっとヤラセの香りが漂いま すが・・・)。本文へ戻る↑ |