April Come She Will

追記)この記事を投稿してもう長くなった。改めてネットを調べてみたら以下で指摘した誤訳が減り、正しく「倒置」を踏まえた訳や解説を多く見るようになっている。この中高生でもわかるような「三単現のS」の欠落を見つけたのは僕が高校の頃だから、半世紀以上も発っていることになる。少しずつ時代は変わってる。


ポール・サイモンの曲「April Come She Will」は僕の高校時代のお気に入りだった。季節の移ろいに儚い恋が滅びてしまうという内容は青くさい高校生だった僕にはなかなか実感の湧かないものだったが、、、。

今の歳になって振り返ると、歌詞中の”she”がやがて死んでしまう恋人ではなく、とおの昔に失った僕の青春そのものに重ね合わさり、切なくほろ苦い。加えてアート・ガーファンクルの甘い歌声がもうたまらない。。。

ところで、日本語のタイトルでは「四月になれば彼女は」と訳される。しかし、僕はこれが気に入らない。いや、完全に誤訳とは言い切れないのだけど、、、

まず、Aprilは本来なら名詞だがここでは副詞的(= in April)に使われている。だから「四月に(なれば)」というのもあながち間違いとは言えない。しかしそれに続くcome she willを「彼女は・・・」と余韻を残して動詞を切り捨てたと見るのはどうかと思う。(もっとも、それくらい訳者の裁量だろ、という考えもあるかもしれないが、、、)

“April come she will” を “(When) April comes, she will ・・・”と解釈するのだったらそれでもいいかもしれない。しかし、comeには三人称単数現在形の「s」が付いていないのでその主語にsheはありえない(うわっ、「三単現のS」って言葉を何十年ぶりに思い出してしまった!)。つまり、このcomeは本来ならshe willに続く原形の動詞で、行頭のAprilと行末のwillが韻を踏むようにかなり強引に倒置されたものだ。ちゃんと書くならIn April, she will come、すなわち「四月、彼女は来るだろう」となる。

おそらく、日本語のタイトルを訳した人はこの倒置法に気付かず、またAprilの副詞的な用法にも頭が回らなかったのだろう。そのため頭から ”(When) April comes, she will ・・・”と見て「四月になれば彼女は」という思わせぶりな尻切れトンボのタイトルにしてしまったのだと僕は思う。

昔、僕が持っていた歌本には”April come she will”だったが、改めて歌詞をネットで調べてみたら”April, come she will”とカンマを入れてAprilはcomeの主語ではないことを強調しているものが多く見られる。(実際にP. Simonがどう書いたかは定かではないのだが、、、)


以下追記:

更に言うと、この”she will come”(来る)は1番の中の次の段で同じ主語の”she will stay”(留まる)に繋がる。ちなみに、以降の2番、3番でも関連のある動詞が対として使われている。2番では”change”(変化させる)と”fly”(飛び去る)、3番では”die”(死ぬ)に対し、一転して主語を”I”に替えつつ”remember”(思い出す)と。しかも、それらに続く文や節や語句も注意深く選りすぐられている。(そして全体を通して見れば見事に「序破急」を成しているのだ)

April come she will
When streams are ripe and swelled with rain
May she will stay
Resting in my arms again

四月はあの女(ひと)が訪れるだろう
雨に潤うせせらぎが水満ちるころ
五月には憩うだろう
ふたたび我が腕に安らぎながら

June she’ll change her tune
In restless walks she’ll prowl the night
July she will fly
And give no warning to her flight

6月になるとその女(ひと)は心もそぞろ
おろおろと歩き夜をさまよい
7月には飛び去るだろう
その飛揚に何の前ぶれもないままに

August die she must
The autumn winds blow chilly and cold
September I remember
A love once new has now grown old

8月にその人は命果てる定め
秋風が凍えるほどに冷ややかに吹き
9月になるといつも私は思い起こす
かつて新しかった恋も今や古びているのだと

Lyrics by Paul Simon