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蒸し器 試運転 その3

小綺麗に作った檜の外箱が、一回目の試運転で構造(強度)上の欠陥をさらけ出したので、補修と補強を行って、再度挑戦。

まず、一番の問題は外蓋の強度。外箱の胴と同じ25mm厚の檜材だが、枠の部分の幅が5cm程度と狭い。そのため各コーナーの接合にはステンレス木ネジがそれぞれ一本ずつしか使えなかった。板の幅が狭く、熱と湿気でも反らないだろうと踏んだからそれで間に合うと思った。ところが枠より、その上の天板の変形応力が大きく、隙間が開くだけでなく枠の接合を引っ剥がしてしまったのだ。

解決策として、4つのコーナー全てに裏側からL字金具で補強を入れること。そして、天板の継ぎ目(稜線)の上から金属のアングルをネジ止めして変形を防ぎ、隙間が開かないだけでなく、枠にかかる力も低減する、という対策を考えた。アングルの角度は90°だけど、ゴム槌で叩いて稜線の角度に合わせた。ビス止めする前にアングルの内側にたっぷり耐熱接着剤を塗って、たとえ僅かな隙間ができてもそれが蒸気をシールしてくれるはず。見た目は何か無骨で美しくないが、仕方ない。実用性と耐久性が第一。

今一つの問題は外箱胴の板が反ってきたこと。胴板は湿気を吸った場合に自然に反り易い方向を考えて木裏を外側に組んである。しかも全ての板の内側中央には反り止めの溝を切ってある。ところが蒸した時に発生する温度・湿度の内部と外部での差の大きさから、内部のほうがかなり膨張して、歪みが生じてしまう。特にコーナー付近でこの歪みが顕著なのは、接合部分の気密性を保持するには、反り止め溝を板の両端までは彫れないためだ。

そこで、第1回目の試験終了後に胴をよく乾かしてから反った板を元に戻すため、長いクランプで挟み、絞り上げておいて、追加の木ネジを打ち込んでやった。最初のような釘隠しのダボを打ったりする元気はない。木ネジの頭が露出してるのは無粋だけど、背に腹は代えられない。いや、たとえが違うか、、、。ともかく、見た目より、ちゃんと使えるものであることが大事。

そこら中にステンレスのコーススレッドを打ちまくって、たぶんこれで大丈夫だろうという処置はした。(ま、その前も「これでだいじょうぶじゃね?」とは思ったんだけどね)

で、前回の試運転に準じた方法で加熱テスト開始。(2.6kw  2300kcal/hのカセットコンロ+250gのガス)

鍋の水を前もって沸騰するまで加熱しておいた。したがって蒸し器にセットした状態で、再度沸騰してからガス切れまで、高温(水温100℃)の時間が長くなるので、ある程度は箱内部での凝結による水のリサイクルがあるとしても、揮発して失われる水の量も増えるに違いない。そこで、前回より1リットル増しの4リットルでスタートすることにした。

内部温度は22℃ほどだったが、熱い鍋をセットしただけで数秒で40℃あたりまで上昇した。その後コンロに点火すると順調に温度上昇が続いた。それでも、外箱が冷えていたせいか、90℃を越えるのに27~8分はかかった。目標の98℃に到達するのにおよそ44分。

今回の最高到達温度、99.8℃。

仮にここまではプレヒートだとして、これ以降が実際の「蒸し」の時間となるのかもしれない。僕は染色をやらないので判らないが、実際には作家さんだって試行錯誤するしかないだろう。今回の場合は、98℃に達してからガスが切れるまでの時間が約42分あった。ちなみに最高温度はスタートから80分の99.8℃。火力の弱いエココンロで、且つ鍋の水面から60cmほど離れていてこの温度は優秀だと思う。

さらには、木製の箱は温度上昇が遅い代わりに、ガス切れの後も温度が下がりにくいことが判った。ガス切れてから加熱なしで98℃を下回るまでに6分30もかかったことから、実質は48分30秒間、98℃以上の蒸し時間を確保できていることになる。さらに、98℃に至る前の段階でも低音ではあっても、それなりに蒸しの効果は出るだろうと思われる。つまり、ガスをまるまる1本使えば、実質1時間くらいの蒸しに相当するのではなかろうか、、、。

使用したカセットコンロはエコタイプのもので発熱量が少ないため、ずっとガスは全開だった。それを一般的な3.5kw (3000kcal/h)のタイプにすれば、もっと温度上昇にかかる時間が短くなるだろう。その代わり、全開では燃焼時間も短くなるので火力を調整して無駄に捨てる熱を減らせば、さらに効率的な運用ができ、蒸しにかけられる時間も長くなると思う。

高温で沸騰する時間が長くなった分、蒸発量も多くなり、4リットルでスタートしたのに最後に残った水は0.7リットルしかなかった。ガスのカセットを交換するなどして長時間の蒸しを行うときには更に大量のお湯を入れておくか、途中でお湯を足す必要がある。足す場合は鍋を下ろす昇降台が役に立つだろう。お湯を足さなくても、残量が心配になったら鍋を下げて中を見ることもできる。

補修と補強の結果、今度は蒸しが進行し、外箱や外蓋の筐体内外の温度・湿度が上がっても、顕著な反りや蒸気漏れは見られなかった。もちろん接合部分の外れは隙間もなし。外蓋の胴板に若干の反りが発生したが、蒸気が漏れるようなものではなかった。ただ、外箱内面で凝結した水が鍋に回収されなかった分だけ外箱の底板に開けた乾燥用の孔から滴り出てきた。ものすごい量というほどじゃないんで、タオルを突っ込むか、スポンジ等で蓋をすれば良いのかもしれない。(あるいは内部の水切り板を設置する必要があるかも、、、)

ともかく、実用にはなりそうな気配。やれやれ、、、やっと終わりが見えた。


蒸し器 試運転 その2

さて、出来上がった蒸し器に実際に蒸気を入れる。そのために鍋をコンロごと上下させる昇降台も作った。

使用したコンロはうちにある2.6kw (2300kcal/h)のカセットコンロに、250gのガス缶を装着した。燃焼時間は1時間26分(実測)。ちなみに一般的なものは3.5kw、3000kcal/hほどで燃焼時間は約1時間ということなのでかなり省エネだけど、その分だけ温度の上昇が遅くなっているかもしれない。

鍋に入れた水の量は3リットル。水温を計り忘れたけど、水道から出たままなので室温より少し低いくらいだったろう。3リットルの根拠というほどでもないが、以前にIHコンロで鍋に水を2リットル入れて、蓋をせずに蒸発するまま沸騰させておいたら2時間ほどでほぼ空になったので、それより火力のあるガスコンロで1時間半近く火にかけたら5割増しくらいの量がいるだろう、といういい加減な推量で決めた。

温度計を外箱最上段の土手っ腹に開けた計測孔から挿し込んで、内箱の内側で、且つ内部に吊り下げた生地よりは外側の位置で計測。(実際に使用する時には、内張りの新聞紙や布があるのでこの位置での計測になる)

実際の使用に準じて、生地の代わりに新聞紙を中枠のカギ針に引っ掛けて吊るした。生地を痛めないよう針の太さはφ0.8mm。バネ用のステンレス棒の先を研いで針にしたものだが、細くて見えづらく、うっかりすると手や腕を針先に引っ掛けて怪我をする。ひどく痛いし、血も出るが、針が細いのが幸いして弾力があり、ブスッと突き刺さらないで済む。

温度変化のメモ(iPhoneより)

加熱スタート時点での水温が低かったので、おそらく沸騰するまでかなり時間がかかるだろう、と予測。案の定、最初の15分ほどは温度上昇が遅かった。20分以降は順調に上がったが、それでも目標の98℃に達するのにスタートから55分もかかってしまった。

それから5分間は98℃以上を維持していたが、スタートからちょうど1時間目に異常が発生! 蓋の角から蒸気が漏れ出したかと思うと、木ネジと耐熱接着剤で固定しているはずのコーナーに隙間が開いているではないか。同時に温度が下がり始め、スタートから1時間26分でガス切れして加熱終了した時点では92℃ほどに。これはアカン!

最初に恐れていた構造(強度)上の問題がさらけ出されてしまった。このザマでは、いくら丈夫な檜材を使っても接合部分が剥がれてしまうようなものを納品できない。

ただ、収穫は、蒸気漏れがなく、内部温度が上がってさえいれば、火力が弱めのカセットコンロでも十分に98℃以上を維持できそうだと判ったこと。

湿った外箱の木が十分に乾いたら補修と補強を施して再度挑戦する。以下は「完成」っした蒸し器の試運転の顛末写真。


蒸し器 試運転 その1
(コンロ昇降台)

外箱外観

形は出来上がったものの、いろいろ不安がある。

まず、構造上の問題。基本的に継ぎ目はステンレス木ネジで固定してあり、外蓋の枠と板は熱に強く固化後も弾力性のあるシリコーン系接着剤(セメダインのスーパーX)で固め、補助的にズレを防ぐ真鍮釘を打った。そして、外箱の板には反り止めの溝を彫り込んである。はたしてこれらが熱と湿気による板の変形応力に耐えてくれるのか。

木取り完了。。。ふう。。。

もう一つの問題、というか心配は、丈夫さを第一に考えて檜の厚板(t25mm)を使ったことで、板の温度が上がりにくくなる可能性があること。軽い杉や桐などのよりずっと重く、比熱容量が大きい檜の厚板が熱をどんどん吸い込んでしまったら、内部の温度が100℃近くに達するまで恐ろしく時間がかかるんじゃないか。

強度も、温度も計算したわけではなく「だいたい、こんなもんじゃね?知らんけど」というヤマカンでやっつけたものだ。もちろんダンボールで予備的な実験はしているが、ダンボールと桧材では比較にならない。

悩んでいても始まらないので、まずはコンロに水を入れた鍋をかけて実地にやってみるしかない。

ところがここで、別の問題が発覚。蒸し器自体が非常に重いため、コンロと鍋を台の下にセットしてから、その上に蒸し器を組み上げると、途中で鍋を下ろして水の量を確認したり、水を足したりするのが困難になる。鍋は外箱の底にある接続のための円筒に挿し込んであるので、そのままでは横に引き出すことができない。まず、コンロと鍋を数センチ下げて円筒をクリアする必要がある。コンロの下に鍋敷きのような板を敷いておき、それを引き抜いてやれば下げることは可能だけど、ぐらぐら沸騰している熱湯が入った鍋が傾いたり、ガタンと落ちるのはやっぱ危ないし、、、。

ラボジャッキ(Amazonより)

そこでラボジャッキのような昇降台を探したが、天板がコンロを置ける30cm四方あって、最低厚みが数センチで、上下の移動幅もほんの数センチという都合のよいものは売ってなさそげ。危険がなく、無理な力も要らず、コンロとその上の熱湯入り鍋を上下させる「装置」をでっち上げることにした。パンタグラフや歯車、チェーンなどで均一に連動する凝った構造はパス。断面が長方形の2本の棒を底板と天板の間で90°回転させるだけの原始的なジャッキを思いついた。他で見たことがないので「新発明」と言えるかも(笑)。ちなみに、ハンドルが90°を少し行き過ぎて止まってるのは、ジオメトリック・ロックがかかるようにしてあるからで、こうすることで少々の揺れでもパタンとハンドルが倒れることがない。

自家製昇降台の上下の高さの差は約2.5cmで、これだけあれば鍋の縁は接続円筒より下に下り、コンロごと差し入れたり、引っ張り出すことができる。(それでも鍋の最上部が蒸し器の台をクリアできないという、ちょっとおマヌケなアクシデントがあったが、台を削るという荒業で解決)

この後、実際に水を入れた鍋をコンロの火にかけて蒸気を発生させ、温度の上昇具合を計測したが、長くなるので今日はここまで。ふう、、、


蒸し器の図面

蒸し器の製作を頼まれてからこの一年、断続的に打ち合わせや、構想の練り上げを続けてきたが、ふと気がついたら、外箱、内箱、台、内枠、木取り図、ポリカの切り出し図、等々、、、いっぱい描いてた。その数、使ったものだけで13枚。ボツを入れたらその倍じゃきかないし、それぞれ改訂バージョンを重ねているから、図面引いてる時間の方が、実際の製作時間よりながいんじゃね?

それ以外にも、発注者への説明用の分解図や、ステンレス枠外注用の図面もあるし、、、 何やってんだか、、、


蒸し器 完成間近

頼まれ物の蒸し器、と言っても蒸籠とかじゃない、がようやく形になってきた。

コンロに応じて高さ調整ができる台の製作から始まって、桧材の外箱、ポリカーボネートを折り曲げるベンダーのでっち上げ、そのポリカで内箱作り、生地を吊り下げる針の曲げと内枠への取り付け、、、と、やってもやっても終わらない、まるで倒すたびに強くなって向かってくる怪物と格闘しているような作業の日々だった。ふう。。。

後は、温度計測用の孔を外箱と内箱に穿って、そこから蒸気が漏れないようにする蓋をつければ、いよいよ試運転。あ、動かないから運転とは言わないか。。。明日、とりあえず温度計を突っ込んだ状態で蒸気を充満させてみるが、内部の温度ができるだけ100℃に近づいてくれることを祈るのみ。

この蒸し器はせっかくそれだけ手をかけたんだし、内部が高温・高湿度になる外箱を丈夫で長持ちさせるためには、すぐ割れたり痩せたり腐ったりするようなチャチな木材は使えない。思い切って2.5cm厚の桧材を選んだ。しかも節の無い高級品。恐ろしいほど高価。。。儲けが飛んだどころか、完全に足がでている、、、(;´д`)トホホ…。それはともかく、この2.5cmの厚みが断熱効果を発揮して吉と出るか、はたまたその熱容量が想定外に大きくてなかなか内部の蒸気温度が上がらず凶と出るか、、、こればっかりはやってみないと判らない。楽しみのような怖いような、、、