知り合いから応量器(持鉢、鉄鉢とも)のイラストを描くよう頼まれている。それで本物の応量器を預かってそれを元に描こうとするのだけれど、写真を山ほど撮っても、ものさしであちこち測っても、どうも微妙な丸みをイラストレーターやCADのラインに写せない。
テクニカルな図面に近い、無機質なベクターラインでさらっと仕上げたいのに、シンプルであればあるほど応量器の張りのある3次曲面を紙の上の曲線に置き換えるのが難しい。とくに一番外側の頭鉢は、釈迦の頭蓋骨を模したとされ、高台がなく底まで丸いので苦労する。
子供の頃、雑誌の写真を見ながら飛行機の絵を鉛筆でよく描いた。僕は芸術的なセンスはともかくとして、機体全体のバランスや比率、胴体の丸み、翼の微妙な膨らみ、そして補助翼などの舵面に至るまで正確精密に表現するのに長けていた。そのため飛行機を実際に存在するかのように描くことができた。大人、それもそこらのシロートじゃなく、技術系の、いや航空関係者に見せても、これはきっと飛ぶ、と唸らせる自信があった。
が、それも今は昔の話。鉛筆で絵など描かなくなって何十年経つだろうか。マウスやペンタブでモニター上のベジエ曲線のアンカーやハンドルを引っ張り回すばかり。
こういう生活が嫌で昨年、作業場を飛び出して放浪のオシラサマ馬頭琴の旅をしたんじゃなかったか。。。 でも、それもまた今は昔。子供の頃のような絵に対する情熱もテクニックもなく、こざかしくデジカメやパソコンを頼る日々に戻ってしまっている。
昨日、せめてアナログ(アナクロかも?)な道具を使ってみようと思い立った。「型取りゲージ」という櫛のような道具を曲面に押し当てると曲線の型取りができるというシロモノ。
借り物の応量器は繊細な黒漆塗り。傷つけないように形を写しとるのに緊張するし、道具に頼るにしてもパソコン上で写真を下敷きになぞるよりは「手仕事」をやっている実感が得られるから、良し、としておこう。