ヘマヴァン山岳ステーション→ヴィーテルスカール
ヴィーテルスカール ストゥーガンへKungsledenトレッキング開始。
(ストゥーガンまたはストゥーガとは、スウェーデン語で小屋のこと)
朝メシのときにケイロンちゃんの歳が25と発覚。ケイロンさんと呼ばなきゃ。二十歳くらいの男の子だと思ったというと、しょっちゅうだから気にしないと。
まだまだ話し足りない気がするが、もう出なきゃ。日本語を勉強しているというボーイフレンドと一緒に日本においで、と言ってさよなら。
ヘマヴァンはKungsledenの出発点だが、スキースロープがめっちゃたくさんあるスキーリゾートでもある。ていうか、そっちが主たる産業なんだろう。飛行場もあるし、なんでも週末になるとノルウェーから買い物に来る人も多いとのこと。ヒッチハイクのケイロンさんはノルウェーに帰る車を捕まえて、ノルウェー経由で帰るつもりらしい。グッドラック。
僕は、スキースロープやリフトの保守道路や冬のレストランへの取付き道に騙されながらも、なんとかKungsledenのスタートをきる。
斜面を登りきると高原状の尾根になり、道はますますはっきりする。道標と岩に塗られたオレンジ色のペンキの目印で、もう迷うことはない。高緯度のこの辺りでは森林限界が800m前後。ダケカンバのような樹との中に針葉樹のが混ざる林を抜けると後はずっと紅葉した地這いの草や潅木ばかり。赤いベリーと青いベリーが混在している。食べてみたが赤いのは美味しくない。ブルーベリーみたいな青い方は、ほんのり甘い。しゃがみこんで食べていたらキリがない。お腹こわすかもしれないので、ほどほどにして、また歩きはじめる。
突然馬の蹄の響きに似た音がして、10mほど先に左手の斜面の下からトナカイが現れる。大きなオスがピンと尻尾を立てて僕の前を横切る。尻尾の裏側は真っ白で、多分それを目印にしているのだろう、2頭の子供と一頭のメスが付いていく。一度トレイル上でたちどまったて僕の方を見たが、すぐに右手の斜面の上部へと消えていった。まだ出会っていないがサーミの人たちの土地にいるのを実感する。
遠くの山々に雪渓が見える。地図によると山の北面には氷河があるはずだが、ここからは見えない。昨日の雨が標高の高いところでは雪だったらしく、山頂部だけ粉砂糖をまぶしたような山が1座、歩くにつれて行くて正面に見え隠れしている。かってに「カンリンポチェ(雪の宝、つまり西チベットのカイラス山のこと)」と名付ける。高原状の尾根を抜けU字谷に入ると、初めての場所なのにとても懐かしいきがした。カイラス山の周回巡礼路にどこか似ている。カンリンポチェと名前を付けたのも、あながち的外れではない。
ホンモノのカイラス山との違いは、もちろん形は全然似てないし、その上、道が山の向かって左から背後へ回り込む(仏教の巡礼者は寺や仏塔を時計回りに周回する)かわりに、山の手前で右に曲がってしまうこと。そのU字谷の曲がり部分に、今日の目的地ヴィッテルサルストゥガンの小屋がある。
小屋番のおばさん(Mia Buchtさん)は引退した教師で話好き。小屋近くにテントを張ると有料だがキッチンやシャワー(っても水浴び場のへやがあるだけだが)の設備が使えるとのこと。800m先に良いテント場があると教えてくれるが、初めての幕営なので、100クローナ(1200円くらい?)払って、近くの草地にテントを張る。
おばさんにお茶をご馳走になる。日本から来たのなら良いのがあると、出してくれたのはお抹茶!去年日本に行った時に買ったとか。ほほー「楽々抹茶」、茶筅なしでOK、フリーズドライしてあり長持ちする、みたいなことが缶に書いてある。おばさんは読めないので訳してあげる。
山小屋には十数人が泊まっている。女の子3人のグループはケイロンさん同様に昨日の雨でずぶ濡れだったとか。食堂へ行ってここで買ったものを食べる。ガスコンロと薪ストーブがあり、調理も自由にできるが、僕は面倒なのでお湯だけもらい、インスタントマッシュポテトと一緒に黒パンにトナカイの肉とチーズを混ぜたペーストを乗せて食べる。
食堂で話しているうち、400km以上北のアビスコまで歩くと言うと驚かれる。ここはまだヘマヴァンから一つ目の小屋だから、遠出しない人も多いのだろう。シベリア鉄道を通しで乗る人が少ないように。
テントに戻り寝るが、夜中にトイレに行きたくて目が覚める。手洗いの水が凍ってやがる!マジかよ。まだ9月になったばっか。これから北に向かうっていうのに、、、。
ウーメオの駅で下車し、一緒のコンパートメントだったスウェーデン人とインド系イギリス人のコンビと同じバスに乗る。少し旅の情報の交換をしているうちに、彼らの下車地につく。僕はまだ数時間先の終点まで。
朝7時半から午後1時過ぎまで、思いの外長いバス。列車の窓から見える景色が朝起きたら一変していたが、バスの長い乗車の間にもいねむりからさめるたびに変化する。地図で見ると熊の爪痕のような、氷河湖の横をと通り過ぎる。アメリカのアップステイト・ニューヨークにあるフィンガーレイクスと同じようだが両手の指でも足りないくらいたくさんの湖が並んでいる。遠くに雪もみえる。いよいよスカンジナビア半島の中央、奥深くまでやって来たのを実感する。
Kungsledenの南の起点、ヘマヴァン着。直ぐにスウェーン・ツーリスト協会STFの山岳ステーションに行く。予想通りの綺麗さ、、、あまり僕向きじゃないかも。。。でも、雨も降ってきたし、地図や情報の入手、それにガソリンストーブ用に燃料も調達しないといけないので、今日はトレッキングを開始せずに、ここで泊まる。
立派な山岳ステーションはともかく、トレッキング途中で利用するかもしれない山小屋や避難小屋もSTFの管理なので、ユースホステルの割引が受けられるよう、ユースホステルには日本で前もって入会してある。会員証を送ってもらう代わりに入会確認メールをスマホで見せるだけでOK。時代が変わったな。。。そういえば、フェリーもシベリア鉄道も同じようにスマホでことが済むEチケットだった。ただ、僕はいつ壊れるかわからないもちろん電気機器は信じられないので、念のためにプリントアウトして持ち歩いているが、、、。話はそれるが、旅に出る時にトラベラーズチェックが日本では発行されなくなっていると知った。殆どクレジットカード決済かカードによる現地通貨のキャッシングになっている。
山岳ステーションのスタッフは皆親切で知識も経験も豊富のようだ。しつこくいろいろ質問しても丁寧に的確に答えてくれる。コースの予定を立てるにはスマホやタブレット用にダウンロードして使う電車地図が便利だと勧められた。早速入手するが、実際に歩く時に使うのはやはり紙の地図ででないと、、、。
一階の広間でのんびりしていると、Kungsleden全コースを歩き終えた人達が三々五々やってくる。泊まらないけど、雨に濡れた衣類を乾かし、体を休めてからバスに乗って帰るためだが、その中でボーイッシュな一人の女性(始め男の子だと思った、スンマセン)は雨の中外でテントを張って寝るそう。猛者やな。
彼女、ケイロン(Caylonは本来なら男の名前なんだけど、、、)という名のイギリス人で明日はヒッチハイクでドイツにある家に帰るとか。。。全然お金が無いと言う。トレッキング中は豆とパスタとサラミばかり食べていたというので、夕食をおごってあげることに。あれこれ話し込んでから近くのレストラン行ったらもう閉める時間なので、ピッツァしかできないと言われた。いや、もともとピッツァくらいしか食べる予定はなかったからいいんだけど。ケイロンちゃんにとっては久しぶりの、僕にとってはしばらくおさらばの「文明的」な食事。お互い食事の相手がいて楽しい時間になる。
ともかく、ケイロンちゃんは若いのに面白い娘で、インドやネパールが大好きで、行ったことある場所が僕と重なっていたり、またチベット仏教にも興味があり、いくらでも話が合う。しかも彼女もアーティストで油絵を描いていると作品の写真を見せてくれる。ちょっとイギリス人画家フランシス・ベーコンのキモい感触を持った人物画だが、僕は嫌いじゃない(でも、うーん、なかなかドロドロしたものを秘めてるね、この子)。人の作品を評するときに「誰々の絵に似てる」ってのは失礼なんで謝ったら、ベーコンは好きなので光栄です、って。僕も、電動マニ車、五体投地人形など彼女の好きそうな作品をYoutubeで見せびらかす。まるでアメリカの大学に居た学生時代戻っている気分。
ヘマヴァンで出会うまで、違う種類だけど、お互い長旅をしてきたので疲れている。これからも先が長い。話し足りないけど早く寝ることに。また明日、出かける前に。
追記:
ちょっと前に、Kungsledenの孤独な山歩きに向かって、自分の心も人から距離を置き始めている、と書いた。が、ヘルシンキでフェリーに乗る時に、何百人いる乗客の中からものすごく低い確率なのに日本人とぶつかって、旅好きの榊原さんたちと楽しく食事が出来たり、今日も「文明」最後の夜にめっちゃ濃い話題を、それも同じ土俵で共有できる人と出逢ったり、、、
前回、2年前の「オシラサマ馬頭琴」製作の長旅も、最初は意気込んで山中漂泊の民を気取り孤独な彷徨をするつもりが、次から次に人と出会い、お世話になり、想定外の旅になった。
どうやら、僕の旅は自分の意図とは別に「そういうこと」になっているらしいな。