友人が副住職の寺の本堂床下の補強工事に続いて、ピアノが畳に食い込まないだけでなく、フィギュアスケートの如く自由自在に軽々と滑って移動し回転する仕掛けも作った。

その寺の和尚が2、3年前にお寺の本堂にピアノを置く、という無謀な思いつきを実行した。その後、畳や床下構造がピアノの重量に対応していないことを何とかしたいし、できることなら壁にへばり付いているピアノの角度を変えて聴衆に演奏者の顔や手元がが見えるようにもしたい、という野望も、、、
で、僕になんとかせぇや、と。
元々、思いついたらすぐ実行しないと気がすまないせっかちな和尚。数年前に床の強度などお構いなしにピアノを設置したが、キャスター固定カップが畳にめり込むわ、前に傾くわ、、、でもアイデアだけでなく器用に物作りするひとなんで、2cmほどの厚みの大きな板でピアノ敷きをこちらえてその上に載せた。で、なんとか安定した、、、と思いきや、200kg超の重さに耐えきれず板が歪んでしまった。
そこで、和尚はもう一つ下駄を履かせた。3cm近い硬いケヤキの板。これでやっと落ち着いた、、、が、ピアノの前傾は直らない。更に修正のため5mmほどの薄板をかました。お陰でピアノはカップも入れると畳から6cm以上も高くなってしまった。いや、よく見たらご丁寧に敷板の下には厚さ5mmほどの畳表の敷物も挟まってるし、、、
そうまでしても、これら5層に積み上げられた補強のために、ピアノを必要に応じて動かすという和尚の所期の野望は達成できていなかった。
畳の上に、畳表の敷物、2cmの敷板、3cm弱のケヤキ板、角度調整板、キャスター固定カップ。。。7cmほどの嵩上げがされている。 背の低いピアニストは椅子の座面を上げると踵が床に届かずペダル操作がやりにくくなる。
梅雨前に和尚から相談を受けた。床下を補強する代わりに畳の中身を丈夫な分厚く硬い板にすれば凹むこともなく、キャスターで移動できるのではないか。僕ならその工事ができるだろう、、、と。
畳の中身は伝統的には稲ワラで、今時の安いものはスタイロフォームだったりするが、それを木の板にすれば畳屋さんは畳表や縁の縫い付けに手こずるだろうな。まあ、ゴザを貼ればいいんだけど、、、。それより、いくら中身が硬くなってもイグサでできた畳表の上を200kg以上もあるピアノの金属キャスターでゴリゴリやったら一発で傷んでしまう。
和尚のアイデアは即却下。でも相談受けて「できません」も言いたくないので、畳はいじらずにおいて、その代わり床下の補強工事とピアノの高さを下げつつ軽々移動できる敷板の製作を請け負った。んなこたぁ今までやったことは無い。できると言ったものの内心はちょっと心配だった。
お寺の用意した厚さ5cm近いヒノキの板を加工し、強度を維持しつつ高さを下げるためにカップの部分を円筒形にくり抜き、さらに重量家具を畳やカーペットの上でも滑らせて移動できる「カグスベール プロ」というスキー板みたいな道具を裏に貼り、ジャジャ~ン♪できちゃった。
(カグスベールはテフロン加工のフライパンみたいなフッ素樹脂なのでツルツル、スベスベ)
長さ調節のできるロープの固定方法が判る。ピアノの前傾を修正する調整板も見えている。
ロープは反対側の板にも固定されていて、手前の板を引いて連動して動く。
設置状況
敷板右側のタブのようなものは、ピアノの前傾を補正するための薄板。二枚重ねで角度調整ができる。
ピアノ前方から
妙なるメロディーを奏でる副住職。
早速今日の昼に納品。和尚と副住職と3人でピアノに履かせてみた。今まで長い棒をテコにして持ち上げ、何人もかかって移動していたものが、一人でロープを引っ張るだけでスルスル移動する。大成功!
技術的なことだけど接地圧を比較してみた。カグスベール4本を使用した場合、カップ4個の1/2以下の圧力。両足で立つ人間の足の裏の圧力よりもまだ低い。
ピアノキャスター固定カップ(φ12cm)
底面積 6cmx6cm×π=113kg/c㎡ 113c㎡×4個=452c㎡
重量 250kg
圧力 250kg÷452c㎡=0.553kg/c㎡=553g/c㎡
カグスベールプロ(70cm⇒55cmに短縮加工)
底面 6cm×55cm=330c㎡ 330c㎡×4枚=1320kg/c㎡
重量 250kg
圧力 250kg÷1320c㎡=0.189kg/c㎡=189g/c㎡
人(成人の足の裏)
面積 140c㎡×2(両足)=280c㎡
体重 70kg
圧力 70kg÷280c㎡=0.25kg/c㎡=250g/c㎡
製作工程
5cm厚の耳付きヒノキ板
バンドソーで挽き割り
ワイヤートンボで皮を剥ぐ
適当に鉛筆立てから引き抜いたら、27年まえに自家用飛行機のライセンスを取ったときの飛行クラブでもらった鉛筆が出てきた。マディソン郊外のモーリー飛行場、、、なつかしいなあ、、、関係ないけど。
カグスベールプロは長すぎるので切断。この後、斜めに裁断しなおして再度つなぎ合わせる。
カグスベールの厚みを減らすために板の裏をルーターで加工。
裏面(左)と表面(右)
カップを沈める穴。
WATCOのオイルステインは良い匂いがする。去年、花脊別所の家を人に貸す前に改装した時の余り物。
ピアノを垂直に保つための調整板を差し込む機構
カグスベールを貼った裏面。
裏表の比較。カグスベールプロを接合した斜め線が見える。
ロープは前後左右に引っ張れる。写真で右手側に引く場合、ロープの反対端がもう1枚の敷板に繋がっていて、連動して動く。前後に引く場合は、二人で反対側のロープも同時に引くか、一人でロープの中央部を引く。
長さ調節のできるロープの固定方法が判る。ピアノの前傾を修正する調整板も見えている。
完成したピアノ敷板
追記
和尚が、以前の敷板を改造して踵のせる台を作った。ピッタリ!

追記の追記
ピアノの重心は背面側に偏っているので倒れると恐ろしく危険。大相撲の逸ノ城(200kg超)にボディ・プレスを浴びせられるようなもので、死人がでてもおかしくない。
スルスル滑るだけに、下手にスピード出すと転倒しかねない。
