Day 05 text / 0824

早くも何日めなのか分からなくなってきた。

アクバルくんは風邪ぎみでしんどそう。咳もしてる。ペインキラーはないかと訊いてくる。アスピリンを持ってきてると思って荷物の中を探した入れ忘れたがみたい。ゴメン。

チェーレンくんはいつの間にか同じ区画に引越して来てる。座席って変われるんか?どことなく白鵬に似てないこともないこのブリヤートの青年とはモンゴル語しか通じないので、忘れきったと思っていたモンゴル語がどんどん思い出せてくる。「この辺には町が無く人がいないので、インターネットが来てないね。」「うん、木はいっぱいあるし、熊も棲んでるけどね。」なんて、分かったような分からないような会話。分からない時はアクバルくんにたすけてもらうが、体調悪く辛そうなので出来るだけ自力の韓国語でおぎなう。韓国でのビアパーティーのビデオとか見せてくれる。酔っぱらった白鵬似のブリヤート人がカンナムスタイルを踊ってるの図はおっかしい。彼は明日、ブリヤート共和国のウランウデウランウデで下りるそうだ。さびしくなるなあ。

アクバル、チェーリン、僕の三人がいると、通りがかりにいろんな人が声をかけてくる。ロシア語は解らないが、二人の答えからどこから?と訊いてるらしい。一人のおじさんが座り込んでなんか喋ってる。自分はエヴェンク(キ)だと言ってるらしい。以前NHKで「トナカイ神」という大興安嶺のエヴェンキのドキュメンタリーを観て、エヴェンキの悲しい恋唄を聴き憶えていたので歌ってみる。

なーだんがしゅー、じゃーこんぐらしゅー
ちんまなやー、だーりやかー
おんかけがー、おぇーまんじがぉー
もーらん、もーらん、もーらん、もーらん

(六人、七人いる中で、ダリヤ、おまえが一番きれい。こんなに恋いこがれているのに、どうして他の人のところへ行ってしまったのだ。ああ、悲しい、悲しい、、、というような意味だったと思う)

おじさんは目を瞑って聴いてくれ、何かロシア語で応えてくれる。チェーリンくんとアクバルくんが、おじさん解ったって言ってるよ、教えてくれる。。。同じ民族とはいえ、大興安嶺の森から1000kmも離れたシベリアに住むエヴェンキのおじさんに、うろ憶えの、しかも全然エヴェンキ語を知らない僕の歌が通じる?!ひょっとして、すごくね?!

おじさんの名を尋ねたらアナトリー書いてくれる。チェーリンくんにエヴェンキ名を訊いてもらうが、無いと言う。ひょっとしたら文字に書けないということかもしれないが、この辺の微妙なコミュニケーションのズレがつらいなあ。

本当はクラスノヤルスクで途中下車して、エヴェンキの人たちのところへ行って僕の作った偽楽器「エレクトリック サイレント エヴェンキ シャーマン ドラム」のビデオを見てもらいたかった。でもそれをしていたら北極圏のKungsledenは冬になってしまう。諦めていたら、向こうからやってきてくれた。

昔、留学中に、チベット行きを切望して果たせずにいたとき、僕のいたマディソンにダライ・ラマが来られた。しかも、講演を聴きに行ったら、偶然に出入口で鉢合わせ。ミーハーにも握手までしてしまったのだった。そして、数日後には運良く直接に入信の灌頂も受けることに、、、

あ、話が逸れた。ともかく、求めよさらば与えられん、は時々起こる。そして今、エヴェンキのおじさん、アナトリーさんが目の前に座ってる。急いでiPhoneを取り出してビデオを再生する。アナトリーさんはまた目を閉じてうなづきながら聴いてくれた(ほんとは目を開けて見てもほしかったけどねw)。

アマザールという駅でアクバルくんが餃子のようなものを買ってきて分けてくれる。中身はマッシュポテト。ペリメニというロシア餃子かと思ったら、それは肉入りのことで、イモ入りはヴァレニキと言うらしい。美味しいので僕も下りて、向かいのホームにいるおばさんから買う。写真でおばさんの服装見れば判るが、めっちゃ寒い。僕は京都でてからずっと半ズボン、半そでシャツのまま。(下着は洗って替えてるけどね)。アクバルくんはブリンというお菓子もくれたが、こっちは甘いクレープみたい。隣の女の子がマシュマロをくれる。三等車内は時々人が入れ替わり飽きることがないし、いろんな人がお菓子とかくれるのでお腹がすかない。

夜になって、船で一緒だったドイツ人二人とイギリス人が通りがかり、食堂車へ行くと言うのでついて行く。今回の旅では初めての食堂車だけど、食事提供時間は終わってる。三人はビール、僕炭酸水。パウルとヤコブ(独)、それにニコ(英)は皆二十歳そこそこ。なのに話題が豊富でヨタ話だけじゃなく、言語や音楽、スポーツまで、若者らしくすごいスピードで出てくる。ピアノ演奏の話になりジョンケージの4分33秒を持ち出したら、即座に俺も弾ける、いや俺の方が上手い、とくる。ニコは日本語が話せ、漢字の知識もあり、僕の名前の文字や意味を聞いて、すぐにスマホで確認する。他の二人も中国語ができる。こいつらすごくね?こっちの英語が若者仕様じゃないのでついてくのに苦労する。1時間以上だべるもとうとう食堂車の電気を消されて終了。



Day 04 text / 0823

日本語が話せる女性はアンナさんといい、大学で1年半ほど日本語を勉強し、日本の大学院に留学し、つい最近、日本に住むロシア人ビジネスマンの男性と結婚したばかりとか。小柄でほっそりしているから、てっきり10代か20歳そこそこと思い込んでいたが、、、。彼女曰く「ご主人と結婚しました」って。うーん、ご主人さま、うらやましいぜ。あ、ちゃうちゃう。日本語とても上手だけど、やっぱり敬語は難しいって。3等車に乗っている人の中には悪い人もいるからきをつけて、と忠告をうけた。はい。いろいろ身に染みてる、、、。

しばらく話していたが、みなが寝始めたので、残念ながらお話のそれまで。アンナさんは友だちの居るルージナで、僕が寝てる間に下りた。

ところで、モスクワ行きの列車で向かいの席はキルギス人のアクバルくん(20)は韓国語と英語ができるので、とても助かる。時々ロシア語を教えてもらう。もちろん、先の船で一緒だった同じキルギス人のムスリムくんみたく、テュルク系の諸語とトルコ語も話せる。

隣のブースのおじさんも少し英語わかり、日本の車の話で盛り上がる。なぜか、おじさんは、、、あ、ごめん、彼は僕より若い45歳なのに、貫禄がある。とおかく、彼はマツダのマイクロバスを自家用車につかってるって。。。?一方アクバルくんはレクサスIS250が欲しいって。。。韓国での日当は100ドルだとか。頑張れ。そう言っている間にも、窓の外の道路をカンガルー便やら何とか機械工業(株)と書いたトラックが走っている。(昔、カシュガルから西チベットへ向かう途中、中印パの国境未確定地帯の高地砂漠アクサイチンで佐川急便のトラックを見たのを思い出す)

と、そこへブリヤート人のチェーレンくん登場。アクバルくんと一緒に韓国で建設の仕事をしていたとか。彼は英語はダメだけど、ロシア語とモンゴル語ができる。あ、もちろん韓国語も。

てなわけで、昨日の船の中からずっと、英語、ロシア語、韓国語、トルコ語、モンゴル語のチャンポン会話が続いている。初日の日本語ペラペラ韓国人、チョンくんとチェさんとの熱い日本語での会話も、今日の未明のアンナさんとの話しさえも、もうはるか昔のように感じる。


Day 03 photo /0822

ウラジオストク

アルセーニェフの旧居博物館

デルスウザーラ

この線路の向こうには、、、 って、こればっかりやな^_^

車中食料買い出し中に、つい買ってしまった
いかにもロシアなバタークリームのケーキ
バタークリームのヌルヌル、嫌いじゃない
モスクワまで9288キロメートル
モスクワ行き099列車6号車

Day 03 text / 0822

ウラジオストク上陸。2時に接岸したのに下船まで2時間かかる。船上で待つ間、初日に同室だったドイツ人とイギリスのグループに再会。同じ列車に乗るそうで、イギリス人はモスクワまで通し乗車して。少し心強い。

下船の列で一緒だった背の高いポーランド人の青年は19歳で大学入学を待っているとか。彼を見て日本の大学生の女子がまたキャアキャア言っている。英語で話しかけているが、学生の英語力ってこんなものかいな、、、

フェリーターミナルの無料Wi-FiでSIMな買える携帯通信会社の「メガフォーン」を探す。鉄道駅の直ぐ横にみつかる。フェリー下りて通関したターミナルをでた前が駅。

SIMはあっけなく買える。英語のできるお兄ちゃんが対応して、まるまるっちいお姉さんがあらかじめロシア語にしておいたiPad miniをちゃちやっと設定してくれる。SIMはひと月間7GB4G対応で795ルーブル。

小銭がないので、5ルーブルはもういいだろ?と言われる。ロシアでは5ルーブルあっても何もかえないよ。って。。。まあ、そうなんだろうけど、、、。まあ、いいか。

帰り際に安いLightningケーブルを見つけ購入。また釣り銭がない。今度は10ルーブル。申し訳ないと思ったのか、にいちゃん曰く「10ルーブル分をSIMにチャージしてあげる、って。ありがたいけど、、、それなら15ルーブルじゃね?ま、いいんだけどさ。

ロシアの釣り銭事情ってこんなもん?

それはさておき、下船に時間がかかったのとSIM購入に手間取って、ウラジオストクの市内観光の時間がなくなった。列車は夜中の11時55分だけど、日が暮れてから知らない都市を彷徨う趣味はない。行きたかった港を見下ろす鷲の巣展望台や大きい「アルセーニェフ博物館」はあきらめて、駅から歩いて行けそうな「アルセーニェフの家博物館」に向かう。アルセーニェフは、黒澤の「デルスウザーラ』に登場するキャピタン・アルセーニェフのこと。

駅からダラダラ坂を登って、左へそれる道を入った突き当たりの右手にある。東海もそうだったが、表通りからはガラッと雰囲気が変わる。まだ、古い木造(ログ造り)の家が残っていて、すぐ背後に迫る高層ビルディングと不釣り合いなコントラスト。こぢんまりとしたレンガ造りのアルセーニェフの家もその並びに建っている。内容も外観同様あっさりと控えめだが、それがまた僕には好もしく感じられる。

アルセーニェフの行った未開地の探検や困難な調査は事実だが、映画はもちろん、アルセーニェフ自身が書いたデルスウザーラの記述にはそれなりの脚色があると言う。しかし、展示されている探検の用具や調査資料の間にある写真の中で、デルスウザーラの姿、面がまえは、映画に描かれた姿があながち誇張とは思えない、威厳を放っている。Kungsledenへ行く前に良いものを見れた。(会えたというべきか。)

鉄道駅に戻り、荷物を預ける。駅ホテルの受付が預り所になってるが、後でわかったんだけど、パックパックのウェストベルトに付いてるポケットからサングラスがケースごと無くなっていた。受付の係員は引き換えのタグを確認して出し入れする客を部屋に入れるけど、ずっとそこに着いてない。手間取ってるふりをして他人の荷物ををゴソゴソやることは十分可能。ウラジオストク駅の荷物預かりは、荷物こそなくならないけど、中身はやられる可能性あり。ここに限らず、バックパックを預ける時、特に小物はポケットでなく、簡単に開けられないメインの気室に入れておく必要がある。しばらくこういう旅をしていないから、高い授業料を払うハメになった。

日が傾いてきたので駅前のスーパーマーケットというスーパーで長旅の買い出し。旅程の半分、4日分のカップ麺、パン、ソーセージ、チーズ、ドライフルーツ・ナッツミックス、ジャムなど。カップ入り味付け乾燥マッシュポテトを探すが見つからない。手元にあるかんりゃくなロシア語ガイドにはそんなものをは出てこない。単語集からなんとか「乾いた」、「潰した」、「顆粒の」、「ジャガイモ」、「コップ」を見つけ出し、店員さんつかまえてそれらを並べて発音んしたら、通じた。

めでたく買い物ををおえてレジにいたら、キツい語調の英語が聞こえてきた。日本人のカップルが、ロシア語が読めず、パッケージの絵を見て買ったけど中身が思っていたのと違うと怒っている。開封してしまっているので返品も交換も断られたらしい。 問題は彼らにあるのだが、声を荒げて
どこまでも英語で押し通してる。かわいそうなので、何とかマネージャーをお願いします、(これくらいのロシア語は口から出て来る)とレジの人に頼んであげたが、もう話がこじれてしまってるので、ニェットの一点張り。そのうち、カップルは「こいつら頭い」とか、係員のことを指差し「これ」とかアゴで「あれ」言い出した。さすがに付き合いきれず、グッドラックと言って別れた。ポルトガルから列車を乗り継いて来たとか。旅慣れているのか、スレているのか、、、彼らの口から英語がポンポン出るが、言葉の一つ一つに思いやりも品も感じられない。コミュニケーションは言葉だけじゃないのになあ。なまじ英語なんぞ喋れると返って苦労するのかも。

また駅に戻る途中で、果物を露天のオヤジさんから買う。ロシア語で値段訊いても、数字が聞き取れない。話してるのはロシア語に違いないけど。 全くわからないので身振りと筆談。数字はほぼ世界共通。めでたくお金を払ったら「タマーム」と言ったような気がした。へ?トルコ人?違うよなあ。目の前の信号が青にかわって僕はそのまま駅に向かう。でも、もうちょっとつっこんでトルコ語で聞いてみればよかったな。。。

ところで、駅舎に入るには手荷物のレントゲン検査と、金属探知機ゲートの身体検査がある。飛行場にあるのと同じ。プラットフォームは「外」ということで外部から出入り自由。駅舎内は蒸し暑く、涼みに何度か出入りしているうちにiPadの入ったバッグがない。待合室に置き忘れたのか、どのゲートのコンベアから取り忘れたのか。。。もう盗られてしまるかも、という不安であせってあちこち駅舎の中や出入り口を駆けまわる。三つ目のゲートに来たら、警備の人が僕の顔を見るなりニッと笑って、バッグ掲げる。預かってくれてたんだ!ありがとう!

その後、預けたバックパックを取りに行って、サングラスがなくなってることが発覚するのだが、これは完全に盗難。でも僕に隙があったからで、まだまだ旅の心構えができていないと思い知る。旅はまだ三日目。始まったばかりなのに濃ゆい教訓に満ちている。

はあ、今日も長い1日だった。

あ、今日はまだ終わって なかったわ。無事、じゃなく、満身創痍でモスクワ行き列車099Эに乗り込む。通路向こうの4人席ではみなロシア語を話してる。こちら側は二人掛けで、向かい合わせの若者は少し英語が話せる。どこから来た?と尋ねられ日本からと答える。二人とも荷物が多く、やり場に困っていると、通路の向かい側から「あの、すみません。よろしければ私の席の下に入れてください。私は6時間で降りますから。」と言う声。細身のロシア人女性が微笑んでいる。しかもべっぴんさん。こういう時は誰でも女性なら綺麗にみえるだろうが、、、。掛け値無しです。笑

日付の変わる少し前にほぼ定刻発車。ちゃんちゃん。