ちょっと前にネットを賑わしていたLexasのホバーボードを、本気で信じた人が大勢いたらしい。あんなものができるわけがない、と目くじらたてることじゃないけど、いくらCGが上手くできていてもちょっと考えたらわかるやろ、くらいなレベルの「奇想天外」なお話。
最近、この手の常識破りのデバイスがよく「本気」で紹介されている。久しぶりにFBに戻ったらそんなのばっか。。。呆れる、というか、ジョークと現実を見極められない人が多くて、寒い。
たとえば「水だけ」で走るバイクが革命的発明だとか、って、、、(笑)。バイクに載せたバッテリーの電気でその水を電気分解し、できた水素でエンジンを動かすんだって。そりゃ、電気分解も水素エンジンもフツーの技術で何も珍しくないから、解りやすいっちゃ解りやすい。でも、電気分解で消費する電力(エネルギー)が水素エンジンで発生するエネルギーを上回ることぐらい明白。そんなまどろっこしいことをするくらいなら、そのバッテリーで直接モーターを動かす電気バイクにすりゃ、はるかに効率がいい。
Lexusのホバーボードの場合はもっと怪しいのに、トヨタという大企業の威光でみなコロッと(笑)。超低温に冷却された超電導のコイルを内蔵していて、バッテリーを使わずとも強力な磁力を発生し、その磁力の反発力で浮揚する「ことになっている」らしい。映像ではコイル冷却用の液体ヘリウムか何かの排気で空気中の水蒸気が凝結している描写がある。まあ、凝ってるね(笑)。
でもさあ、磁石の斥力は相手側も磁石じゃないと働かない、という基本的な理屈が抜けている。リニアモーターカーのように、超電導コイル内蔵の車体を浮かせるためにだだーっと電磁石を並べて、その上を滑るのならまだしも、ホバーボードの映像にそんなものは写ってない。水の上など気ままに好きなところを滑っている。まあ、地球が巨大な磁石だということで、その磁力を反発に使っていると思うかもしれない。でも、その仮定が現実なら、地磁気の力はコンパスの針をフラフラ動かすどころじゃなくて、地上の鉄やニッケルなどはみな北極と南極に吸い寄せられてしまうだろうさ。
で、いよいよそのホバーボードに続くものが出てきた。「WalkCar」は電気分解だの超電導などややこしい技術は使ってないのでさらに「現実味」を帯びている。ていうか単なるバッテリー+モーター駆動の超小型EVに過ぎないから、作ろうと思えばいくらでも作れる。でも、僕はこれにも懐疑的。(ケチばっかつけて夢のないやつだ、と言われるかもね。まあ、そういう人はせいぜい「超能力」とか「原子力」に夢を見ていてください)
キックスターターで資金集めをして、まもなく予約販売開始ということだけど、まずはこちらのプロモムービーを見てほしい。
http://www.huffingtonpost.jp/autoblog-japan/walkcar_b_7993528.html
初めの7秒間でバッグから取り出されるWalkCarは、底面にバッテリーなどを装備している様子はないし、リアのキャスターホイールはオシャレな中空のアクシスレス。デザイン的にもとてもスッキリまとまっている。
で、その直後にWalkCarに乗って走りだす映像が続く。編集であたかも上述のスッキリしたWalkCarと同じもののように見せてある。でも、よく見てみ?別もんです!!!
ビデオを見て気づいたこと:
- リアキャスターはホームセンターで売ってそうなダッサい自在キャスター。
- 駆動輪のカバーもハリボテっぽいし、天板(ていうのかねえ?)も乗り手の体重で変形し中央部が撓んでいるのが見える。
- 底面に、さっきまで無かった四角い物体(バッテリーケース?)が付いてる。
ホバーボードと違ってCGではなさそうで、映像のWalkCarは実際に走ってると思う。キャスターのシミー(バタつき)を防ぐために取付に角度を付けてあるところなど結構生々しい現実感(笑)。おそらくプロモムービーの実動機は開発中のプロトタイプで、最初に映したのはコンセプトモデルだろう。だったらミスリーディングな小賢しい編集をせずにその旨をことわればいいのに。(でもこんな状態なら10月発売には間に合わないだろうな)
この時点でもう「あれれ?」なんだけど、もう一つ、公式サイトには何処にもWalkCarの技術スペックが全く出ていない。バッテリーの容量、モーターの消費電力、そういったものを一切書かずに外部サイトで「3時間という短い充電時間で最高速度は約10km/h、航続距離は12km」などと紹介されても信じようがないし。。。
WalkCarのような小さいホイールは路面の凹凸の影響で転がり抵抗が非常に大きくなるからバッテリーの消耗が激しい。底面にフットするくらいの大きさのバッテリーでは、せいぜいが細切れにビデオを撮影する時間くらいしか動いてくれないだろう。ついでに言うと、同じ外部のサイトで「約120kgの重さに耐えられる」と紹介されているが、公式サイトのアイキャッチ画像は合成だ。実働プロトタイプですら映像の中で歪んでしまってるのに、コンセプトモデルになんか乗っかった日にゃグシャ!だろうからね。
つまり、謳われているようなWalkCarはまだ存在していないと疑ってかかるほうがいい。
キックスターターなどのクラウドファンディングが一概に悪いとは言わない。実際、僕も知り合いのDVD/CD作成プロジェクトの資金集めに協力したこともある。でも、それはその人の顔が見えていて何をどうやって行くのかの道筋も明らかだからこそ、信頼して応援できるのであって、小賢しい映像のマニピュレーションで「どうです、スゴイでしょ〜!」というダマシをやるようなWalkCarとは全然レベルが違う話だ。
CGでしかないLexusのホバーボードは非常によく出来たホラ話で、たとえ信じこんでも何の害も与えない。ま、得意顔で「これ、知ってる?スゴイよ!」言いふらしたヤツは、後になって恥じ入ることになるだろうけどさWWW)。
一方、WalkCarは実際に走るものが存在するけど、映像で紹介されている実機は、見本として見せられる「コンセプトモデル」とは程遠い未完成品。。。いや、多分、実現しない。(航続距離が12kmじゃなく、1.2kmなら実用化を信じてやってもいい。でも、こういうウサンクサイ映像でプロモーションやってるようなヤツの言うこと、ハナから信用ならんわな)
多分そのうち、「出来ませんでした、ゴメンナサイ」と謝る代わりに「道交法をクリア出来ませんので、発売延期になりました」とかいう言い訳が出てくるだろう。既に実用レベルにあるあのセグウェイですら、日本じゃ合法化出来ずにいるんだからねえ。