Day 16 text / 0904

スューテル→テルナヘォ

夜中の雨も上がり、今日は一日中天気が良いと聞く。コースも下りと、後は平たん。のんびりテントを畳む。

スューテルの小屋でを出る前に、管理人のマルガレータさんから、小屋での名前の謂れを聞く。これから越えてゆく峠右側の出っ張りは、昔、サーミの娘がノルウェー人と結婚するために家を出、ここにたどり着いたが、反対する父親に追いつかれ、命を奪われた場所だという。その後サーミの家族の名前が「スィルト」で、それが訛ってこの辺りの地名として残ったとのこと。ガイドブックではトナカイの犠牲を捧げたとあるが、、、

小屋を出てからしばらく登ると、後ろに南と北のスューテルトッペンがU字谷の門番のようにそびえているのが見える。あの間を通ってきたんだなあ、、、。北はピラミッドのようにドッシリしている。南は相変わらず雲で頭が見えない。何度もふりかえるが、一向に見えない。代わりに前・方はるか下に島の点在する湖が見えてくる。これからその島伝いに向こう岸に渡ることになる。

ここまで、動物の気配がほとんどない。そりゃそうだろう、初日に森林限界を越えているし、鳥などがそうそういるとはおもえない。トナカイたちも冬に備えて山を下りたようだ。湖に近づくにつれこうどがさがり、またダケカンバのような樹林帯が始まる。その中に入ったとたん、鳥の声がして、足音におどろいた小鳥が飛び立つ。

湖畔に着いて、橋まで北上する間にトナカイの新鮮な足跡を見つける。ホカホカの糞も。僕と同じ方向を向いているから、追いかけることになる。人もトナカイも同じ道を通るんだな。1kmも行かないうちに前方を4頭が横切る。

島をつなぐ橋はジグザグにならび、行くても来た道も、とても景色が良い。昨日、麓を通過した山々、これから向かう山々がくっきりみえている。こんなのが日本だったら人でいっぱいになるだろうな。。。上高地の河童橋を思い出す。幾つも、数えてないのでわからないけどが、橋を渡り、湖の西側に至る。次の山小屋をまであとまだ10km。

右側に湖面が見え隠れする林と、牧草地のような湿地とが交互に現れる。一服していたら、ブオ、ブオ、ブオという声。湿地の向こうに黒っぽいトナカイのが現れる。その行く先を見ると、木の陰になんと真っ白のトナカイが待っている。こちらを気にしているが、驚くふうでもない。カメラを持って少しずつ近づくと、ある距離を保つようにいどうする。やがて道に上がって樹々の向こうに消えていく。このペアにはその後にも出会う。またしばらく行くと、こんどは茶色い母親らしいとなかいに、灰色の仔鹿が付いて歩いているのにも出くわす。きょうは都合10頭ほどのトナカイたちに出会った。

テルナッヘォの小屋に着いてテントを張っていると、隣のテントからどっかで見たことのある兄ちゃんがニコニコやってきた、、、あ、ウーメオまで夜行で一緒だったスウェーデン人マルティンくんとインド系イギリス人ベンくんのふたり組!バスも一緒だったけど、ずいぶん手前で下りたのに、この山の中で出くわすとは。。。釣りをしたけど坊主だったそうな。マスを8匹も釣った人もあるというのに、、、

ここは、なんと湖畔にサウナがある。小屋の客とキャンプサイトの利用者はご自由にと。。。早速行ってみたら数人の先客がいて、当たり前だけどみんな素っ裸で大汗かいている。目の前の湖にとびこむひとも。ていうか、みんだ裸で飛び出していく。僕は血圧の問題でそれはできない、、、。ついでに痛風持ちだからサウナ自体気をつけないといけないんだけど、この三日の長歩きのあと、体をリラックスさせ筋肉をほぐす誘惑にはかてない。。。一緒に入ったフランス人(バティスタ)青年がKungsleden北端のアビスコから来たというので情報をもらう。

夕食後、しばらく雑談したあと、皆が部屋やテントに戻っていっても、僕はこの書物をしている。小屋番さん(クルト・イーヴァン)がやって来て、ローソクの日の始末だけしてくれたら、何時までいてもいいよといってくれる。と言いつつ、まっくらなしょくどうで3〜40分は話し込む。ジャーナリストだった彼は、ベルリンの壁崩壊前夜に現地へ向かうつもりが、家に残していくペットのことなどで手間取っているうちに、壁が壊されてしまったとか。人生最大のミステイクだって。で、北朝鮮はどうよ?と訊かれるので、いろいろ説明してああはならない、と言っておいた。

おやすみなさい。

夜中、12時半頃にトイレに行きたいわけでもないのに目が醒める。ひょっとして?と思ってテントから頭を出すが、見上げてもただ満天の星空。残念。寝袋に潜り込み、めっを閉じる。。。いや、待てよ、、、と、もう一度外に身を乗り出して見上げたら、薄雲のような緑色の縞模様が天頂から西に向かって流れてる。急いで冬用のダウンジャケット取り出し、羽織って外へ出る。ダウン着てても結構冷えるが、そんなのどうでもいい。湖畔まで下りて人生3度目のオーロラ・ボレアリスに30分ほど見入る。冬のオーロラの縁の上に夏に名残の白鳥座が透けて見えるサウナで話ししたフランス人は、北極圏のアビスコからひと月かけて南下して来たのに一度もオーロラを見てないと言っていた。トレッカーは早寝早起きだからなあ。今夜も見ていないだろう。。。白いトナカイ見て、夜はオーロラ。僕はきっとついてるね。

今度こそ、おやすみなさい。


Day 15 photo / 0903

ヴィーテルスカール→スューテル

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朝のキッチン、、、 ん?夜かも、、、いや、やっぱ朝。薪ストーブもあるけど、調理はガスが主に使われる。小屋には簡易なショップがあり、食料調達が出来る。また、寝具も揃っているので、雨具以外なにも持たずにトレッキングが出来る。(そんな人は見かけなかったけどね)
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大型の山岳ステーションを除いて、Kungsledenの山小屋では非常に珍しいのだが、ヴィーテルスカール小屋では朝食を出してくれる。テント泊でも料金払ってるので注文した。

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テントを張った水はけの良い高台は、ヘリポートでした、、、(笑)
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だんだんU字谷がはっきり形を現してきた。
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季節が晩く、萎びたワタスゲの群落

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道標の代わりに平たく剥離する岩石をまるで墓石のように立ててある。分かり易いが、不自然な目障り感はない。Kungsleden全行程でよく目にした。
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山小屋と山小屋の中間にある防風避難小屋。緊急時以外は泊まれないが、休憩は自由。
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シベリア鉄道でオクサナさんにもらったお菓子をここで食べる。水はモスクワ−ヘルシンキの夜行で出されたもの。なんだかんだと一杯もって歩いてる。
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避難小屋の内部
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避難小屋の内部
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猟師ではないが、犬を連れたトレッカーも見かける。でも、これ犬のサイズ?

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このあたりではマウンテンバイクもOK。しかし、よくまあ、、、元気だねえ、、、
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バイカーは小屋で話した高齢のハイカーには道を傷めると評判悪かった。僕は特に嫌ではないが、、、。ただ、マウンテンバイク乗ってたら、たぶん景色は見れない。トレイルランナーにも共通することだけど、この景色の中を地面ばっか見ていて楽しいのだろうか。。。

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サーミのひとたちがトナカイの無事を祈って生贄を捧げた丘がみえる。立ち並んでいるXじるしは積雪期のルートを示す道標。(必ずしも夏ルートとは一致しない)
サーミのひとたちがトナカイの無事を祈って生贄を捧げた丘がみえる。立ち並んでいるXじるしは積雪期のルートを示す道標。(必ずしも夏ルートとは一致しない)
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Kungsledenの水はどこも安全ということになっている。スウェーデン中部はチェルノブイリ事故の影響がまだ残っているとか。中部では今もキノコやベリーも食べてはいけないと言われたが、、、。北の方とは言えヘマヴァンは中部に近い。。。
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今日の登りはここまで。 雲が低く垂れ込めている。 U字谷の左右には南北スューテルトッペンの峰が聳えている(はず)
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峠を越えると眼下に湖がみえてくる。明日、あの島伝いに架けられた橋をいくつも渡って湖の向こうに行くことになる。。。ああ松島や、、、遠くに見える切り欠いたような山は、米国ヨセミテ国立公園のハーフドームに似ている。ただし裏返しの鏡像みたい。。。あの向こうまで歩くんかい!
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アザミをよく見かけた
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キンポウゲの仲間か?

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ヘマヴァンのブルーベリーとくらべて、避難小屋の周辺から峠あたりの高地に生えるブルーベリーは美味しくない。(後でわかったけど、ブルーベリーではない、ニセモノらしい、、、 (@_@;)
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今日の野営地、スューテル。ここの山小屋もマルガレータさんという60くらいの女性が管理人。

 


Day 15 text / 0903

ヴィーテルスカール→スューテル

朝、小屋に行ったら昨夜、オーロラが見えたと聞く。トイレに起きたのに気づかなかった。残念。でも、まだあとひと月あるし、だんだん北へ向かい、冬も近づいてくる。見るチャンスはあると思うう。

ヴィーテルスカールの山小屋を出る時に、管理人のおばさん、ミーアさんがリコーダを演奏して送ってくれる。見送りに孫の坊やも出てきてくれる。ハイカー(旅人)が歩き疲れ、脚も痛むけれど、それでも旅は続き歩き続ける、という曲だそうだ。

これぞU字谷という形の谷底を東へ向かって歩く。一万年前、この上には1000m以上の厚さの氷があった。その下を歩いていると想像すると不思議な感じ。氷河の源頭の両側には北のスィーテルトッペンと南のスィーテルトッペンがそびえているはずだが、低く垂れ込めた雲で見えない。雲底辺りが氷河の表面だったのかなあ。この谷だけじゃない、かつてスカンジナビア半島全体が途方もなく巨大で分厚い氷に覆われていたのだそうな。氷期が終わり、その重みから解放された半島の地殻はマントルから浮き上がっているという。つまり、氷期が終わってから今もなおずっと隆起が続いている、って高校の地学で習ったな。。。

とかなんとか考えながら歩いていたら、スューテルスカレットの避難小屋に着く。先客2人がお昼を終えて出るところ。僕も入れてくれる?って聞くと、避難小屋だから誰でもOKだよと。歳の話になって、僕と同年代とわかる。そのひとり、ステファンさんは、ダムに沈む森の木を伐った後の切り株も抜魂して、廃棄物として処分されるが、その形や表面の様子が面白くて、自分の彫刻の材料として使っているそうな。朝、小屋を出てから最初に出会った人が、同業者だとは、、、

避難小屋で昼にしてゆっくりする。女性のグループが外で少し休んで何も言わずに出発していく。どっちに向かったかもわからないけど、出会ったのはその後、マウンテンバイクの2人組だけ。ヘマヴァンから遠くなるにつれて人が減ってくる。

U字谷をつめきったところは広々とした草地。夏にはトナカイの大きな群れが放牧されているとか。少し向こうには小高い丘状のピークがある。ガイドブックによると、昔、ここでサーミの人たちがトナカイの健康を祈って生贄を捧げたとか。いまは、トナカイころかネズミも見えない。

峠を越えたら雨。下り終えると今日のキャンプ地、スューテル。また、キャンプサイト利用料金100クローナ、1200円を払って、小屋の設備を使わせてもらい、体をふいて、残り湯で洗濯もする。スウェーデンでは、他人の土地であっても、基本的にどこでキャンプしても良いそうだ。が、別に特別スパルタンな山行きをしたいわけでもなく、どうせ来週には無人地帯を一週間歩かなきゃならないんだから、今は楽をしておこう。

管理人のマルガリータさんがジュースをふるまってくれる。途中、綺麗な渓流の水を飲んできたが、甘いものもまた美味い。

(ちなみに、スウェーデンはチェルノブイリの原発事故で汚染されているが、放射性物質を吸着・吸収する植物、地衣類、菌類はともかく、水はそれらによってろ過され、年数が経った現在では飲用可とのこと)


Day 14 photo / 0902

ヘマヴァン山岳ステーション→ヴィーテルスカール

ヴィーテルスカール ストゥーガンへKungsledenトレッキング開始。

(ストゥーガンまたはストゥーガとは、スウェーデン語で小屋のこと)

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ヘマヴァン山岳ステーションの朝食。取り放題だけど、ほどほどに。。。
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昨日の風雨の中、ヘマヴァンにたどり着いたケイロンちゃん。濡れネズミの少年だと思ったら、女性だった。しかも、今朝、20代半ばと判明。レディーに、、すみません。。。
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天気は、、、晴れのち曇り、空は半々やねえ。
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ヘマヴァン山岳ステーションは立派すぎて、これからトレッキングする感じがしない、、、
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ホテルかよ。。。
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いよいよスタート。でも、これだけ?そっけないな。
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スキー場のスロープ横を登る。ああ、中高生のころ、北比良の望武小屋に行く途中や、花背別所から寺山峠を越える時にも、ゲレンデの横を登ったっけ。。。
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夏の人混みも去り、冬のスキーには早すぎる、、、ここはオフ・シーズンということになっている。でも、ベリーとキノコがわんさかある、下生えの黄葉した涼しい林を抜けて歩くと、今が一番のシーズンに思えるのだけど、、、

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遠くの山の雪、、、このあたりの樹はまだ黄葉していない。
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森林限界は800mを下回る。北アルプスあたりだと2500mくらい。
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あちこちに木道が整備されている。が、外れて歩いてもルール違反ではない。Kungsledenだけでなく、スウェーデンの殆どのトレイルでは、常識的である限りどこで幕営してもOKだそうだ。実際、トレイル沿いにテントや野営跡をよくみかけた。
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ブルーベリーを食べながら歩くと、全然ペースが上がらない。高3のワンゲル夏合宿最終日、京大芦生演習林の林道を下る時に、野イチゴを食べ食べ、あっちへフラフラこっちへフラフラと歩いたのを思い出す。それをイチゴペースと呼んだ。(でも、あれは帰り道だった、、、Kungsledenは始まったばかり、、、大丈夫かね)

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蹄の音が聞こえたかと思うと、左手の斜面からいきなり10m先にトナカイが数頭飛び出してきた。大きいオスを先頭に、メスや子どもたちが続く。トナカイはメスにも角があるので、先頭の大きいのもオスとは限らないが、、、

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シベリア鉄道で食っちゃ寝の一週間。ホッペはまだまだふっくらしてる。

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粉砂糖のような新雪を頂いた山が一座だけある。勝手にカイラス山になぞらえてカン・リンポチェ(雪の宝)と呼んで、その麓を目指す。

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行く手に雨の気配。西日を背にしているので虹が、、、
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虹の下に今日の野営地、ヴィーテルスカールの小屋が見えてきた。

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幕営は基本的にどこでしてもいいし、無料。ただ、山小屋の近くにテントを張り、小屋の設備を使わせてもらう場合は1200円ほどの料金を払う。 小屋の管理人、ミーアさんは日本で買ってきた自分用の抹茶を振る舞ってくれた。

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小屋から少し離れた水はけの良い高台にテントを張る。
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トナカイ肉とチーズを混ぜたペースト。大きくて重いけど、パンやクラッカーにちょうどいい。後ろはシベリア鉄道でも重宝した粉末マッシュポテト。
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もう白夜じゃない季節なんだけど、高緯度なので太陽が沈む角度が浅く、地平線の下に太陽がグズグズしてるのでなかなか暗くならない。。。

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Day 14 text / 0902

ヘマヴァン山岳ステーション→ヴィーテルスカール

朝メシのときにケイロンちゃんの歳が25と発覚。ケイロンさんと呼ばなきゃ。二十歳くらいの男の子だと思ったというと、しょっちゅうだから気にしないと。

まだまだ話し足りない気がするが、もう出なきゃ。日本語を勉強しているというボーイフレンドと一緒に日本においで、と言ってさよなら。

ヘマヴァンはKungsledenの出発点だが、スキースロープがめっちゃたくさんあるスキーリゾートでもある。ていうか、そっちが主たる産業なんだろう。飛行場もあるし、なんでも週末になるとノルウェーから買い物に来る人も多いとのこと。ヒッチハイクのケイロンさんはノルウェーに帰る車を捕まえて、ノルウェー経由で帰るつもりらしい。グッドラック。

僕は、スキースロープやリフトの保守道路や冬のレストランへの取付き道に騙されながらも、なんとかKungsledenのスタートをきる。

斜面を登りきると高原状の尾根になり、道はますますはっきりする。道標と岩に塗られたオレンジ色のペンキの目印で、もう迷うことはない。高緯度のこの辺りでは森林限界が800m前後。ダケカンバのような樹との中に針葉樹のが混ざる林を抜けると後はずっと紅葉した地這いの草や潅木ばかり。赤いベリーと青いベリーが混在している。食べてみたが赤いのは美味しくない。ブルーベリーみたいな青い方は、ほんのり甘い。しゃがみこんで食べていたらキリがない。お腹こわすかもしれないので、ほどほどにして、また歩きはじめる。

突然馬の蹄の響きに似た音がして、10mほど先に左手の斜面の下からトナカイが現れる。大きなオスがピンと尻尾を立てて僕の前を横切る。尻尾の裏側は真っ白で、多分それを目印にしているのだろう、2頭の子供と一頭のメスが付いていく。一度トレイル上でたちどまったて僕の方を見たが、すぐに右手の斜面の上部へと消えていった。まだ出会っていないがサーミの人たちの土地にいるのを実感する。

遠くの山々に雪渓が見える。地図によると山の北面には氷河があるはずだが、ここからは見えない。昨日の雨が標高の高いところでは雪だったらしく、山頂部だけ粉砂糖をまぶしたような山が1座、歩くにつれて行くて正面に見え隠れしている。かってに「カンリンポチェ(雪の宝、つまり西チベットのカイラス山のこと)」と名付ける。高原状の尾根を抜けU字谷に入ると、初めての場所なのにとても懐かしいきがした。カイラス山の周回巡礼路にどこか似ている。カンリンポチェと名前を付けたのも、あながち的外れではない。

ホンモノのカイラス山との違いは、もちろん形は全然似てないし、その上、道が山の向かって左から背後へ回り込む(仏教の巡礼者は寺や仏塔を時計回りに周回する)かわりに、山の手前で右に曲がってしまうこと。そのU字谷の曲がり部分に、今日の目的地ヴィッテルサルストゥガンの小屋がある。

小屋番のおばさん(Mia Buchtさん)は引退した教師で話好き。小屋近くにテントを張ると有料だがキッチンやシャワー(っても水浴び場のへやがあるだけだが)の設備が使えるとのこと。800m先に良いテント場があると教えてくれるが、初めての幕営なので、100クローナ(1200円くらい?)払って、近くの草地にテントを張る。

おばさんにお茶をご馳走になる。日本から来たのなら良いのがあると、出してくれたのはお抹茶!去年日本に行った時に買ったとか。ほほー「楽々抹茶」、茶筅なしでOK、フリーズドライしてあり長持ちする、みたいなことが缶に書いてある。おばさんは読めないので訳してあげる。

山小屋には十数人が泊まっている。女の子3人のグループはケイロンさん同様に昨日の雨でずぶ濡れだったとか。食堂へ行ってここで買ったものを食べる。ガスコンロと薪ストーブがあり、調理も自由にできるが、僕は面倒なのでお湯だけもらい、インスタントマッシュポテトと一緒に黒パンにトナカイの肉とチーズを混ぜたペーストを乗せて食べる。

食堂で話しているうち、400km以上北のアビスコまで歩くと言うと驚かれる。ここはまだヘマヴァンから一つ目の小屋だから、遠出しない人も多いのだろう。シベリア鉄道を通しで乗る人が少ないように。

テントに戻り寝るが、夜中にトイレに行きたくて目が覚める。手洗いの水が凍ってやがる!マジかよ。まだ9月になったばっか。これから北に向かうっていうのに、、、。