アービスコ→SJキールナ・ナルヴィク鉄道
昨夜のツーリストステーションのディナー、レストランの値段は高過ぎてパス。ショップで買った冷凍ピッツァをキッチンの電子レンジで温めて食べたが、朝飯はそれほど高くなく、しかもちゃんとしたものが食べれるのでレストランに行った。昨夜のメンバーとは違うが、道中の山小屋で顔を合わせた人たちとつるんで良く喋り、良く食べた。が、やはりアンドレアスくんの姿はなく、誰も彼を見かけなかったとのこと。やはり昨日早く着いて列車に乗っちゃったか?ただ、話をした一人から多分午後の同じ列車でストックホルムへ向かうだろうから、昨日のうちに帰ってしまったということはない、と聞いた。でも僕のナルビック行きの列車は彼らのより早い時刻に出るので、見送るわけにもいかず、このまま会えないかもしれないな。
皆にさよなら言って戻る途中に、レストランの反対側の席に一人ポツンと座っているアンドレアスくんを見つけた。なんかホッとした。黙ってこっちを見て、微笑んでる。いかにも彼らしい。そういうところがいい。チェックアウトの10時が迫っていたので「またその辺で」と声をかけて部屋に戻った。
荷物を預けにロビーへ行くと入口に、テント泊まりでコースもKungsledenのトレイル周辺を歩き、途中で僕と出会ったり、しばらく会わなかったりしてきたドイツとフランスのカップルがいて、彼らは今着いたばかりのようだった。彼らにも別れの挨拶をした。
さて、発車時刻までまだ3時間もある。暇つぶしに同じ敷地内にあるミュージアムへ行ってみた。ちょうどアンドレアスくんが、アビスコ周辺の自然や動物たち、サーミの人たちのことを説明する案内板を読んでいるところだった。ミュージアムは休館らしい。日曜日なのに!?シーズンが終わってる?でもオーロラはこれからなのになあ、、、。
まあ、屋外の案内板だけでもと読み始めたら意外と面白い。説明の中でサーミ語の地名表記に使われる単語の説明があり、興味深く見たた。最近は、地図の地名も道標もスウェーデン語化された綴り(ちょうど、和人がアイヌ語地名に漢字を当てたようなもの)ではなく、サーミ語のアルファベット綴りの表記に改められつつある。舌を噛みそうな地名ばかりだと思っていたが、チェクチャの管理人ステファンさんが説明してくれたことは、これを知っていたらもっと良くわかっただろう。
アンドレアスくんが昼飯までの間。「キャニオン」に行くと言う。食事の時は別にして、僕はこの旅で今まで一度も誰かと「一緒に何々しないか?」と言ったことはなかったが、この時は、一緒に行っていいか?と訊いてみた。この5、6日で彼の行動志向はわかっているし、また迷惑でもダメとも言わない性格の人間だろうと思うけど、まあ最後だし、、、
で、ツーリストステーションから歩いて数分のところにある、岩石のキャニオンへ行った。岩の裂け目の数十m下を流れる渓谷の水は昨日歩いてきたアービスコヤウレの湖から流れ出た川で、この高みから数km先に見下ろすさらに大きな湖にデルタとなって流れ込んでいる。
鉄道の駅のほんのすぐ近くまでほぼ手付かずの自然が迫っていて、アクセスに車やバスを使わなくていいし、半日歩くだけでKungsleden以外にもいくつもの山小屋があり、もちろん途中の景色も素晴らしい、とアンドレスくんはアービスコの立地が好きだと言う。オーストリアはじめヨーロッパのアルプスではこうはいかないらしい。手軽に行ける「山小屋」のレストランにはシェフがいて、ホールでは音楽が生演奏されている。山小屋らしい山小屋に行くにはずっと上まで登り、それなりの山の装備や技術がいるのだとか。
キャニオンには車椅子が通れる遊歩道が巡らされ、一般の人も気軽に「自然」を楽しめるように工夫されている。途中に「アービスコ国立公園のシンボル」と銘打たれた金ピカのデカイ「物」が鎮座している。野外彫刻とか記念碑とかが景色の一部となって自然と共存することに異存はないが、これはないだろう、、、。あまりに馬鹿馬鹿しいのでアンドレアスくんに写真を撮ってもらった。
ここからは遥か山の上にオーロラを観るためのスカイステーションが見える。アンドレアスくんにも「レーザー照射で偽オーロラのプロジェクションマッピングしたら、曇りの日でも日本人はじめ、オーロラを目的に来た人たちから料金とってガッポリ儲けるぜ(がタダ観も続出するだろう)」という話をしたら、やはり大ウケした。
対岸の岩壁の上で写真撮ってるのは、アービスコヤウレから別ルートを取ってこちらに向かったスウェーデン人のおっさんくさいお兄さん。アンドレアスくんも彼もサウナが大好きなので、山小屋のサウナに行くと必ず彼らがいた。アンドレアスくんとは対照的にサウナでもどこでも口が軽くて良くしゃべるが、面白い人だ。彼ともお別れの挨拶ができた。
やがて時間が過ぎて、僕の乗る列車の時刻が迫ってきた。アンドレスくんとツーリストステーションまで戻って荷物を取ってきたら、別のスウェーデン人で、映画のことならスウェーデン政府の映像アーカイブで調べてみたら、と教えてくれた人が山から戻ってきていた。旅の後半のそのまた後半で出会い、同じように北向きコースを取った人たちの大部分にさよならが言えるとは、、、
いよいよ、アンドレアスくんたちとも別れの挨拶をし、駅に向かって歩き出したが、すぐ思い直してとって返し、スウェーデン人くんにお願いしてアンドレアスくんとのツーショットを撮ってもらった。
Kungsledenでも、「あ、さっき会った人のところまで戻って、、、さっき見たあの景色のところまでとって返して、、、と写真を撮ることを何度も何度も考えたが、なぜか踵を返すことはなかった。ま、いいか、とそのまま歩き続けた。のんびりしていたつもりだけど、ほんとは余裕がなかったんだろうか。今回は特別。記念写真で本当に最後の最後。さようなら。どこかの道をゆっくり歩いていたら、また会えるかな。
駅までほんの200m。線路の高架に沿った道路を渡ろうとしたら列車の警笛が聞こえてきた。こんどは鉄鉱石の積み出し港ナルヴィックからの回送列車。昨日見た時、まるでフィルムを逆回しして映画の最初のシーンに戻ったような感じになったが、今一度、二重連の機関車に牽引されて空のバケットの列が西から東へ戻って行くのを見送ると、昨日Kungsledenの最後で出くわした時よりもっと強く、ダメ押しのように僕の「旅の終わり」を悟らされることになった。